キャビテーションとは液体中に圧力変動が生じ、局所的に液体の蒸気圧が下がることで気泡が発生し、その後崩壊する現象です。この気泡の生成と崩壊に伴い、非常に高い圧力や温度が発生して周囲の物質に強い衝撃を与えることが特徴です。
キャビテーションは、超音波を用いた洗浄や医療用器具の洗浄・滅菌、美容分野における肌の洗浄や脂肪分解など、幅広い分野で応用されています。しかし、その強力な作用ゆえに素材へのダメージや人体への影響も考えられるため、適切な条件下での利用が重要です。
キャビテーションの発生条件は、液体の圧力がその蒸気圧以下に低下することで気泡が形成され、その後圧力が急激に上昇することで気泡が崩壊するというプロセスに基づいています。
キャビテーションが発生する主な条件は以下の通りです。
液体中の局所的な圧力がその液体の蒸気圧よりも低くなると、液体が沸騰し気泡が形成されます。この状態は、特に高速で回転するプロペラやタービン内で発生しやすく、液体の流れに急激な圧力低下が生じた場合に起こります。
液体の圧力と蒸気圧の関係
液体中の圧力がその液体の蒸気圧を下回ると、液体の分子は周囲から十分な力を受けずに、液体から飛び出しやすくなります。この現象が液体の沸騰であり、気泡が形成される原因となります。蒸気圧は液体の種類と温度によって決まる値です。温度が高いほど蒸気圧は高くなります。
超音波など高周波の音波が液体に伝播すると、圧縮と希釈のサイクルが生じます。これによって液体の局所的な圧力が変動し、キャビテーションが発生する条件が整います。
温度が高いほど液体の蒸気圧は上昇し、キャビテーションが発生しやすくなります。逆に、温度が低いと蒸気圧は低くなり、キャビテーションの発生が抑制されます。
液体の粘度、表面張力、ガス含有量などもキャビテーションの発生に影響します。例えば、低粘度の液体やガスを多く含む液体は、キャビテーションが発生しやすいとされています。
条件 | 説明 |
圧力変動 | 液体の圧力が蒸気圧以下になると気泡が形成される |
音波の周波数と振幅 | 高周波音波が液体に伝播するとキャビテーションが発生 |
液体の温度 | 高温であるほどキャビテーションが発生しやすい |
液体の特性 | 低粘度、ガス含有量が多い液体はキャビテーションが発生しやすい |
キャビテーションの発生は物理的に影響をもたらすため、さまざまな分野で重要な意味を持ちます。局所的に発生する高い圧力と温度は、物質や周囲の固体表面に影響を及ぼします。
キャビテーションによって引き起こされるエロージョンは、固体表面が高エネルギーの衝撃波や気泡の崩壊による微小なジェット流によって削られたり、損傷を受けたりする現象です。これは、船舶のプロペラやポンプのインペラなどで特に顕著に現れ、部品の寿命を短縮させる要因となります。
高圧と高温
気泡が崩壊する瞬間、極めて高い圧力と温度が発生します。
衝撃波
圧力によって衝撃波が生じ、周囲の材料を直接攻撃します。
微小ジェット
気泡崩壊時に発生する液体ジェットは、非常に高い速度で材料に衝突し表面を削り取ります。
疲労破壊
反復的なキャビテーションによって材料に微小なひび割れが生じ、それが成長して最終的に材料が破断する、疲労破壊を引き起こすこともあります。
流体機械の効率が低下する場合があります。キャビテーションによって生じる振動やノイズが、機械の性能に悪影響を及ぼすことがあります。
振動
キャビテーションによって生じる振動は、機械の構造に悪影響を与え、性能低下や寿命短縮の原因となります。
騒音
キャビテーションは、強い騒音源となります。この騒音は、作業環境の悪化だけでなく、機械の性能にも悪影響を及ぼすことがあります。
キャビテーション損失
キャビテーションによって、流体のエネルギーが失われるため機械の効率が低下します。
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ポンプ内で発生するキャビテーションは、ポンプの性能低下や損傷を引き起こす重大な問題です。ポンプが液体を移動させる際、局所的に圧力が低下し液体が気化してキャビテーションが発生します。
この際に生じる衝撃波は、ポンプの羽根やケーシングに浸食(エロージョン)を引き起こし、騒音や振動を発生させます。結果としてポンプの効率が低下し、寿命が短くなることがあります。
吸入圧力の低下:
ポンプの吸入口での圧力が、ポンプ内の液体の蒸気圧よりも低くなるとキャビテーションが発生します。これは液体の吸入が不十分な場合や、吸入配管の設計が不適切な場合に起こりやすいです。
過剰な流量:
ポンプが設計された流量を超える量の液体を移動させると、内部の圧力が低下しキャビテーションの原因になります。過剰な流量はポンプの効率を悪化させ、キャビテーションを引き起こしやすくします。
液体の温度が高い:
液体の温度が高いと蒸気圧が上昇しキャビテーションが発生しやすくなります。例えば、冷却システムやボイラー給水ポンプでは、高温の液体が流れるため特に注意が必要です。
キャビテーションの対策は、ポンプだけでなくタービンやプロペラ、さらには超音波洗浄機や医療機器など広範囲の装置や技術において必要とされます。
流体の流れを安定させる設計:
流れの急激な変化や渦を防ぐために、滑らかな形状で適切な寸法を持つ流路や部品の設計が必要です。タービンやプロペラの形状を最適化することで、圧力の急激な変化を防ぎ、キャビテーションの発生を抑制します。
耐摩耗材料の使用:
キャビテーションが発生しても部品が損傷しにくい素材を選定することが重要です。耐キャビテーション性のある材料(ステンレス鋼、チタン合金、硬質コーティングなど)は、エロージョンによる損傷を最小限に抑えることができます。
流量の制御:
ポンプやタービンでの流量を適切に制御することで、圧力変動を抑えます。過剰な流量や圧力が原因でキャビテーションが発生する場合、制御システムやバルブで調整し、適切な範囲に維持します。
吸入圧力の確保:
吸入口やタービン入口での圧力が十分に高く保たれるように、吸入経路を最適化したり、摩擦損失を減らす設計を行います。
冷却装置:
冷却システムやヒートエクスチェンジャーを導入することで、液体の温度を適切に下げ、キャビテーションの発生を抑えます。例えば、ボイラー給水ポンプや冷却水ポンプなどでは、液体の温度を適切に調整することがキャビテーションの防止に効果的です。
運転温度の最適化:
機器の運転温度を最適化することで、液体の蒸気圧が過剰に上昇するのを防ぎ、キャビテーションを抑制します。
キャビテーションは、その発生場所や原因、形態などによって様々な種類に分類されます。主な種類とその特徴を以下で表にまとめました。
種類 | 特徴 | 発生場所・原因 |
クラウドキャビテーション | 複数の気泡が互いに結合し、より大きな空洞を形成する | 高速流体中の障害物後方など |
シートキャビテーション | 液体の流れ方向に平行なシート状の気泡が発生する | 翼面、水中翼など。流れが分離しやすい箇所 |
ボルテックスキャビテーション | 渦の中心部に発生するキャビテーション | 渦の中心部 |
キャビテーションと沸騰は、どちらも気泡が発生する現象ですがキャビテーションは液体中の圧力変動によって、沸騰は温度上昇によって発生するという大きな違いがあります。
キャビテーションは主に工業機械での問題として取り上げられることが多い一方、沸騰は調理や加熱で一般的に観察される現象です。キャビテーションが発生する状況では、その気泡崩壊による損傷が重要な問題となるため、対策が必要です。
項目 | キャビテーション | 沸騰 |
発生要因 | 液体の局所的な圧力低下による | 液体の温度が沸点に達することによる |
気泡の生成場所 | 液体中の局所的な低圧部分 | 液体全体、特に加熱された表面や液体内部 |
発生メカニズム | 圧力変動により発生し、気泡が急激に崩壊する | 液体が気化して気泡が形成され、持続的に発生 |
用途・影響 | ポンプやタービンの損傷原因となるが、超音波洗浄や医療で応用されることもある | 調理や加熱プロセスで一般的に見られる日常的な現象 |
エネルギー源 | 圧力の変化による | 外部からの熱供給 |
キャビテーションは一般的には機械の損傷を引き起こす負の現象として知られていますが、その高いエネルギーを持つ特性を活かして、様々な分野で応用されています。
原理:
超音波振動によって液中に無数の微小な気泡が発生し、それが崩壊する際に生じる衝撃波を利用して、物体の表面に付着した汚れを強力に剥ぎ取ります。
応用:
精密機器の洗浄、医療器具の滅菌など、高度な洗浄精度が要求される分野で広く利用されています。
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原理:
キャビテーションによって液体を微細化し、液滴同士を衝突させることで乳化や分散を促進します。
応用:
食品加工(マヨネーズ、ドレッシング)、化粧品製造、塗料製造など均一な混合物を得る必要がある分野で利用されています。
原理:
キャビテーションによって発生する高圧ジェットを加工面に照射し、材料を削り取ります。
応用:
硬い材料の切削、微細加工など従来の切削方法では困難であった加工に利用されています。
ドラッグデリバリー:
薬剤を封入した微小な気泡を体内に注入し、超音波によって気泡を崩壊させ、薬剤を放出するドラッグデリバリーシステムの研究が進んでいます。
結石破砕:
腎臓結石など体内の結石をキャビテーションによって破砕します。
キャビテーション崩壊時に発生する衝撃波をシュリーレン法で可視化した事例をご紹介いたします。
周期的に発生するクラウドキャビテーション崩壊時の衝撃波を可視化しています。映像ではシュリーレン法と併せてハイスピードカメラを使用しています。撮影は1秒間に30万コマ(300,000fps)で行っています。
撮影協力:東京大学 医用精密工学研究室 中川 桂一 先生
がん細胞破壊を目的とするPCND(phase change nano droplet)を気泡化させるための、衝撃波の伝播を可視化しています。
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撮影協力:JAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学系 坂本 勇樹 先生
キャビテーション気泡が崩壊する時に発生する圧力波を可視化しました。可視化にはシュリーレン法を用いて圧力波(衝撃波)が伝播する様子をとらえています。
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キャビテーションが発生しやすい条件としては以下の点が挙げられます。
液体の温度が高い:液体の温度が高いほど飽和蒸気圧が高くなり、
同じ圧力でも液体が気化しやすくなります。
液体の圧力が低い:液体の圧力が低いほど飽和蒸気圧との差が小さくなり、
液体が気化しやすくなります。
流速が速い:流速が速い箇所ではベルヌーイの定理により圧力が低下するため、
キャビテーションが発生しやすくなります。
ポンプでキャビテーションが発生すると以下のような影響が考えられます。
性能低下:
ポンプの効率が低下し、揚程(ようてい:ポンプが流体を持ち上げられる力)が減少します。
材料の損傷:
気泡が崩壊する際に発生する衝撃波によって、ポンプの羽根やケーシングが損傷します。
騒音・振動:
キャビテーションによって、ポンプから騒音や振動が発生します。
インペラ(羽根):
インペラ周辺は、流速が速く圧力が低下しやすい箇所です。
吸込口:
ポンプの吸込口では、液体の圧力が最も低くなるため、キャビテーションが
発生しやすい箇所です。
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