風洞|実験の目的から応用分野・可視化事例まで紹介

風洞とは?

風洞の画像

大型低速風洞 ※撮影協力:東海大学 工学部 航空宇宙学科 稲田 喜信 先生
風洞とは人工的に発生させた空気の流れを利用して、物体に働く力やその周囲の空気の動きを精密に測定するための装置または施設です。大型のファンで空気を送り出し、試験部と呼ばれるエリアで模型に空気を当てます。

具体的には、自動車の空気抵抗の低減や航空機の翼に働く揚力の確認に使用されます。また、試験中には風速、圧力、流線などを測定するための高度なセンサーやカメラが用いられ、データは設計や性能評価に活用されます。

なぜ風洞が必要?

航空機や自動車、高層ビルなどの構造物や乗り物は、空気中での挙動が性能や安全性に直結します。これらの物体が空気から受ける力や、空気に与える影響を正確に把握することは、設計の最適化や性能向上において不可欠です。

例えば、航空機では揚力と抗力を調整して効率的な飛行を可能にし、自動車では空気抵抗を減らして燃費を改善します。また、高層ビルでは強風時の振動や圧力分布を予測し、耐風設計に反映することが求められます。風洞の必要性とは、これらの課題に対応するための空気の流れを正確に再現し、流体力学のデータを提供する不可欠な装置となるためです。


風洞実験とは?

風洞_車の空気の流れ

風洞実験とは航空機や自動車などの縮小模型を配置し、風が当たる状況を再現して行う実験です。風洞実験では空気の流れや物体に働く力を測定し、性能や設計の最適化、安全性向上に役立てます。

風洞実験を行う理由

風洞実験は製品の設計から性能向上、安全性確保に至るまで多岐にわたる目的で活用されます。その主な理由を以下の4つに整理しました。

1. 製品開発の効率化:
風洞実験では縮小した模型を使い、実際の製品を製作する前に様々な条件下でテストを行います。この方法により、設計段階で問題点を特定し、開発コストと時間を大幅に削減できます。具体的には、自動車の空気抵抗を抑える設計や航空機の揚力を最適化するデザインが可能です。

2. 安全性の向上
航空機や自動車など、人命に関わる製品では安全性の確保が最優先です。風洞実験を通じて強風や乱流など過酷な環境での挙動を再現し、潜在的なリスクを設計段階で発見・改善することができます。

3. 性能の向上:
風洞実験で得られるデータを活用することで、製品の形状や構造を最適化し、性能を向上させることが可能です。航空機の燃費効率向上や自動車の騒音低減など、環境負荷の軽減にも貢献します。

4. 現象の解明
風による振動や騒音、渦の発生など、設計に影響を与える複雑な現象を詳細に観察します。風洞実験によってそのメカニズムを解明し、新しい設計手法や技術革新の基盤を築きます。

風洞実験でわかること

風洞実験では空気の流れや物体に働く力、圧力分布を精密に解析し、設計段階での課題を特定できます。さらに、振動や騒音といった現象を把握し、安全性や性能の向上、騒音低減策の検討にも貢献します。

空気の力:
物体に働く揚力、抗力、側力などの力を測定し、飛行性能や走行性能を評価します。航空機では離陸に必要な揚力や燃費効率に影響する抗力、自動車では高速走行時の安定性や燃費に直結する抗力が分析されます。

圧力分布
物体表面や周囲の空気の圧力分布を測定することで、空気の流れの状態や力の発生メカニズムを詳しく把握します。このデータをもとに、形状の最適化や性能改善が可能です。

流れの可視化
レーザーシート・トレーサー粒子を使用して空気の流れを可視化します。レーザーシートによる流れの可視化は、渦の発生や流れの分離といった現象を詳細に観察でき、空力特性の改善や騒音低減策を立案するためのデータを得られます。

振動特性:
風による振動特性を評価し、構造物の強度や耐久性を確認します。高層ビルや橋梁では、風の影響を正確に把握することが、耐風設計や安全性向上のカギとなります。

騒音:
物体から発生する騒音を測定し、その発生源を特定します。データをもとに航空機や自動車の騒音低減策を検討し、快適性や環境への配慮を向上させます。

風洞実験の具体的な応用分野

航空機

風洞_航空機
  • 揚力と抗力のバランス:離陸に必要な揚力や、巡航時の抗力など
  • 失速特性:速度が低下した際の揚力の変化
  • 高速飛行時の衝撃波:音速を超える速度での空気の流れ
  • 操縦安定性:風の影響下での機体の安定性
  • 騒音:エンジンや機体から発生する騒音

自動車

風洞_自動車
  • 空気抵抗の低減:燃費向上に繋がる
  • リフトの発生:高速走行時の安定性への影響
  • 風切り音:車内の騒音
  • 冷却性能:エンジンなどの冷却効率

建築物

風洞_ビル群
  • 風圧:建物にかかる風による力
  • 風による振動:高層建築物の揺れ
  • ビル風:建物の周囲に発生する強い風
  • 排煙性能:火災時の煙の拡散

風洞の基本構造

風洞は人工的に風を作り出し、物体に働く力や空気の流れを調べるための装置です。その構造は、目的に応じて様々なバリエーションがありますが、基本的には以下の要素から構成されています。

風洞の主な構成要素と役割

構成要素 役割
送風機 風洞内に空気流を生じさせるための動力源。
一定の速度と圧力を保つために使用されます。
整流部 送風機から出た空気は乱れが大きいため、
そのままでは正確な実験を行うことができません。
整流部ではハニカム構造やスクリーンなどの装置を用いて、
空気の流れを均一にし乱れを抑制します。
縮流部 収縮部では空気を絞ることで風速を上げ、
測定部における高速で均一な流れを確保します。
測定部 測定部では、航空機や自動車などの模型に風を当てその反応を観察します。
流れの可視化やデータ取得が可能です。
拡散部 空気の速度を減速させ、圧力損失を最小限に抑えます。
乱流を制御し効率的に空気を流す。

構造の種類

開放型風洞(エッフェル型風洞)

開放型風洞(エッフェル型風洞)は、開放型の構造を持つ風洞で外部の空気を試験部に通した後、再び外部に排出します。この設計のシンプルさから教育目的、基礎研究、比較的小規模な試験に適しています。試験部が開放されているため、大型の試験対象を設置できる点が特徴です。

また、送風機を試験部の下流に配置することで効率的な空気の流れを作り、試験部内に均一な風速を実現します。
一方で、外部環境の影響を受けやすいため、精密な測定が必要な場合には適さないことがあります。

回流型風洞(ゲッチンゲン型風洞)

回流型風洞(ゲッチンゲン型風洞)は、空気を循環させる閉ループ型の風洞で外部環境の影響を最小限に抑え、高精度な空力試験や研究を可能にします。この設計から航空機の翼や自動車の形状最適化、さらには風力発電タービンの性能評価など、精密なデータが求められる分野で広く利用されています。

空気は循環路を通して何度も再利用されるため、一定の流速や温度を維持し試験の効率性を高めます。試験部は密閉設計となっているため、風洞内部の温度や圧力などの条件を厳密に管理して再現性の高いデータを提供します。


整流のメカニズム

風洞_ハニカム構造

風洞実験において正確なデータを得るためには、試験部における空気の流れをできるだけ一様かつ乱れのない状態にする必要があります。このため風洞には整流部が設けられています。整流部は送風機から出た乱れた空気を整え、試験部へ滑らかな流れを提供する重要な役割を果たします。

整流の目的

乱流の低減:
風に送風機から出た空気は回転翼の影響や配管内の摩擦などにより、様々な大きさの渦を含む乱流状態になっています。この乱流は試験部における流れを複雑にし、実験結果に誤差をもたらす原因となります。

一様流の形成:
試験部では一様な速度分布を持つ流れが理想です。整流部は速度分布を均一化し、流れの方向を揃えることで一様流を形成します。

流れの安定化:
整流によって流れを安定化させることで、実験中の流れの変動を抑制し測定の精度を高めます。

整流部に使われる装置

ハニカム構造体:
六角形のセル状構造を持つ材料でハチの巣のような形状をしています。乱流を抑制し、一方向に揃った気流を作り出します。高い剛性と軽量性を持ち、流れの方向を安定化するのに適しています。

スクリーン(多層メッシュフィルタ):
細かい網状のフィルターで構成され、気流の乱れをさらに減少させます。通常、複数の層が配置されており、乱流成分を順次減衰させます。

ベルマウス:
拡散角が小さい円錐状の形状で流れを徐々に収縮させ、一様流を形成します。

静圧孔(ピトー管アレイ):
整流部における圧力分布を測定し、流れの均一性を確認するために使用されます。計測結果を基に整流装置の調整が行われます。


風洞の流速

風洞実験において流速は最も重要なパラメータの一つです。流速によって物体に作用する力や、周りの空気の流れの様子が大きく変化するため、実験目的に応じた適切な流速を設定する必要があります。

流速の重要性

物体に働く力:
流速が大きくなるほど物体に働く空気抵抗や揚力は大きくなります。航空機の翼の揚力特性を調べる場合や、自動車の空気抵抗を評価する場合など、流速は実験結果に直接的な影響を与えます。

流れのパターン:
流速が変化すると流れのパターンも変化します。低速では層流と呼ばれる滑らかな流れになりやすいですが、高速になると乱流と呼ばれる不規則な流れになりやすくなります。流れのパターンは、物体の周りの流れの様子を大きく左右します。

相似則:
風洞実験では実際の物体と模型の間で相似則を成立させる必要があります。相似則を成立させるためには、両者の相対速度(レイノルズ数)を一致させることが重要です。

流速の違いによる風洞の種類

超音速風洞

超音速風洞とは空気の流れを音速(マッハ1)を超える速度に加速させることができる特殊な風洞装置です。航空宇宙分野や高速移動体の研究において、超音速条件下での空力特性を評価するために使用されます。

超音速風洞は航空機やミサイル、ロケットなどの設計において、超音速飛行時の性能や安定性を確認するための重要な役割を果たします。

マッハ数に対応:
マッハ1を超える流速を生成し、場合によってはマッハ5(極超音速)以上の流れを模擬することも可能です。

特殊な設計:
ノズルの形状が特に重要で、流速を超音速に加速するためのラバルノズルが使用されます。また、試験部や整流部は超音速流に対応する高い耐圧性や耐熱性を持っています。

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低速風洞

低速風洞は空気の流速が音速(マッハ1)よりも大幅に遅い状態(通常マッハ0.3以下)を模擬できる風洞装置です。航空機や車両、建築物、さらにはスポーツ用品などの空力特性を評価するために使用されます。

低速風洞は設計や開発段階において、物体が低速で空気中を移動する際の挙動を詳細に分析するための重要なツールです。

低速な気流を生成:
空気の流速を精密に制御でき、層流や乱流など、異なる流れの状態を模擬可能です。

汎用性:
航空機の小型モデルから自動車や建築物のスケールモデルまで、さまざまな形状やサイズの対象物を試験可能です。


風洞実験における「流れの可視化」

ミニカー×風洞実験:流れの可視化とPIV

撮影協力:青山学院大学 理工学部機械創造工学科  渡辺 昌宏 先生
風洞に車種の違う4種類のミニカーを配置して車体まわりの気流を可視化しています。可視化された画像からPIVで速度ベクトルを算出しました。

スモークワイヤー法による流れの可視化

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サイドミラーの気流解析:PIVを用いた風洞実験

撮影協力:東京理科大学 工学部機械工学科 石川研究室
サイドミラー周りの気流を風洞実験を行い、PIVで解析した様子を動画で紹介しています。燃費向上や騒音低減にも繋がる、サイドミラーの形状と気流の関係を解明します。

PIV入門ガイド|必要な機材から計測手順までわかりやすく解説

お役立ち資料【プレゼンにも使える
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PIV×風洞実験:5つの事例紹介

本動画では、PIV(Particle Image Velocimetry)を用いた風洞実験での事例を紹介します。PIVは流体の速度ベクトルを算出し、速度場を視覚化する強力なツールです。特に風洞実験において、気流の複雑な挙動を理解しやすくします。

収録内容
01:円柱後方の気流
02:車体モデル リアウイング周りの気流
03:野球のボール フォーシームの回転
04:ゴルフボール(ディンプル)後方の流れ
05:雪氷風洞で雪の挙動を計測

カルマン渦の渦度を計測_PIVとは

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風洞についての質問

風洞実験ではどれくらいの風速を出せますか?

風洞実験で出せる風速は、風洞の種類や設計仕様によって大きく異なります。
以下に一般的な風洞の流速範囲を示します。

低速風洞
通常、数m/s~100m/s程度まで。主に航空機の離陸・着陸時の挙動や自動車の空気抵抗、
建築物への風の影響を調べるのに使用されます。

亜音速風洞
およそ100m/s~300m/s程度。亜音速(マッハ0.3~0.8)領域の流速を模擬でき、
航空機の巡航状態などを解析するために使用されます。

超音速風洞
マッハ1(音速:約340 m/s)を超える風速が出せます。通常はマッハ1~マッハ5程度まで
対応し、戦闘機やロケットの超音速飛行時の空力特性を評価します。

極超音速風洞
マッハ5以上(数千 m/s)。宇宙船の再突入や超高速飛行体の研究に使用されます。

風洞実験は何のために行うのですか?

風洞実験は、物体が空気や他の流体中でどのように振る舞うかを調べるために行われる試験です。
実験の目的は、流体が物体に与える影響を測定し、設計や性能の最適化に役立てることです。
以下に具体的な目的を説明します。

空力特性の評価
例: 航空機の翼の設計、自動車の空気抵抗低減

安定性と制御の確認
例: 戦闘機の動翼設計、ロケットの姿勢制御

風環境の影響の解析
例: 建築物の風荷重評価、都市計画における風環境改善

スポーツなど競技分野への応用
例: 自転車、ヘルメット、ボールなどの設計改善

風洞実験を行うことで何がわかりますか?

揚力、抗力、モーメントなどの空気力学的な特性を数値として測定できます。
【➡例: 航空機の翼設計における最適な揚力係数の確認、自動車の空気抵抗低減】

試験対象物の周囲を流れる空気の挙動を可視化し、渦や乱流の発生位置、
流速分布を分析できます。

【➡例: 流れの剥離や乱流がどこで発生するかを特定し、設計改良に役立てる】

物体表面に作用する圧力を詳細に測定し、流れの影響を評価できます。
【➡例: 翼や車体にかかる局所的な圧力分布から、構造への負荷を予測】

空気抵抗や揚力のデータを基に、エネルギー効率を評価できます
【➡例: 燃費性能向上のための自動車設計、風力タービンの効率改善】

高層ビルや橋梁などの構造物が、風による振動や負荷をどの程度受けるかを解析できます。
【➡例: 強風下での橋の耐久性、都市の風環境改善】

風洞設備に求められる性能は?

風洞設備は正確かつ効率的な実験を行うために、高度な性能が求められます。
その性能は実験の目的や対象物、再現する流速や環境条件によって異なりますが、
以下に一般的な風洞設備に求められる主な性能を挙げて説明します。

1.広い流速範囲の再現性:目的に応じた流速を正確に生成できること
2.均一で安定した気流:試験部できわめて低い乱れ率の流れを生成できること
3.効率的なデータ取得:力やモーメント、圧力分布、流速分布を精密に測定できること
4.再現性の高い特殊条件:乱流、衝撃波、層流を再現するための設備が整っていること


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