
レーザー(Laser)とは、誘導放出によって光を増幅し、特定の性質をもった光として取り出す技術です。Laser という名称は、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)の頭文字を取った略称であり、レーザーの動作原理そのものを表しています。

レーザー光

普通の光
日常生活で使われている照明や太陽光は、多くの波長成分が混ざり合い、さまざまな方向に拡がりながら放射されます。このような光は自然で扱いやすい一方、精密な制御には向いていません。
一方、レーザー光は、特定の波長成分だけが選択的に増幅され、空間的にも時間的にも秩序だった状態で取り出されます。その結果、光はほとんど拡がらずに直進し、レンズで極めて小さな点に集光することが可能になります。この性質の違いこそが、「レーザー」を理解するうえで最も重要なポイントの一つです。
レーザー光の発生には「誘導放出」と呼ばれる現象が関わっています。原子や分子は、エネルギーを与えられると高いエネルギー状態(励起状態)になります。この状態にある粒子に特定の光が入射すると、入射した光とまったく同じ性質をもつ光が新たに放出されます。
この現象が繰り返し起こることで、波長・位相・進行方向がそろった光だけが次々に増えていきます。レーザーとは、この「同じ光が増え続ける仕組み」を巧みに利用した技術です。
レーザーとは、エネルギーを与えるための光であると同時に、現象を正確に「照らし出す」ための光でもあります。
流体の流れ、微粒子の移動、材料のわずかな変形、高速で起こる非定常現象などを観察するには、再現性が高く、時間的・空間的に安定した光源が不可欠です。
レーザーはこれらの条件を満たすため、可視化、計測、精密加工といった分野で欠かせない存在となっています。
レーザーとは何かを理解するうえで欠かせないのが、レーザー光がもつ3つの特徴です。これらの性質は、レーザーがなぜ計測・加工・可視化に適しているのかを説明する根拠でもあります。

レーザー光は単一の波長(単色)で構成されている
レーザー光は、ほぼ単一の波長成分だけで構成された光です。
太陽光や照明光は、赤から青までさまざまな波長が混ざった光ですが、レーザーでは特定の波長だけが選択的に増幅されます。
この高い単色性により
といった利点があります。
流体計測や粒子可視化、光学計測では、この波長がそろっていることが測定精度を大きく左右します。

私たちが目で見ている「色」は、光の波長の違いによって決まっています。光は電磁波の一種であり、その中で人の目が感じ取れる範囲を可視光と呼びます。可視光の波長範囲は、おおよそ 400~700 nm です。この範囲の中で、波長が異なると、私たちは光を異なる色として認識します。
・波長が短い光(約400 nm付近) → 紫色
・波長がやや長くなると → 青色
・約500~550 nm付近 → 緑色
・さらに長くなると → 黄色・橙色
・波長が長い光(約650~700 nm付近) → 赤色
このように、波長が短いほど紫寄り、長いほど赤寄りの色に見えるという対応関係があります。

レーザー光は拡がらずにまっすぐ進む
レーザー光は、非常に指向性が高く、ほとんど拡がらずに直進する光です。
通常の光源は距離が離れるほど大きく拡散しますが、レーザー光は長距離でも細いビーム形状を保ちます。
この性質により
といったことが可能になります。
計測や加工において「どこを照らしているか」が明確である点は、レーザーの大きな強みです。

普通の光は位相がバラバラでそろっていない

レーザー光は位相がそろっている
レーザー光のもう一つの重要な特徴が、コヒーレンス(可干渉性)です。コヒーレンスとは、光の位相が時間的・空間的にそろっている性質を指します。
位相がそろっているため、レーザー光は互いに干渉しやすく
といった応用が可能になります。
これは、自然光では得られないレーザー特有の性質です。

レーザー光が計測・加工・可視化に適している理由は、前述の3つの性質(単色性・指向性・コヒーレンス)を同時に満たしている点にあります。
これらが組み合わさることで、レーザーは単なる照明ではなく、現象を定量的・再現性よく捉えるための光源として機能します。レーザーとは、「明るい光」ではなく、測る・加工する・見せるために最適化された光だと言えます。
レーザーの原理は、一見すると複雑に思われがちですが、基本的な構成要素は次の3つに整理できます。
1.レーザー媒質(光を増幅する物質)
2.励起(エネルギーを与える仕組み)
3.共振器(光を往復させる構造)
レーザーとは、これらを組み合わせることで、誘導放出を連続的に起こし、そろった光だけを効率よく取り出す仕組みです。

基底状態

励起状態
励起状態とは、原子や分子が外部からエネルギーを受け取り、通常よりも高いエネルギー準位にある状態を指します。原子や分子は、何もしていないときには最も安定した基底状態にありますが、光や電気などのエネルギーを吸収すると、一時的により高いエネルギー準位へと遷移します。この状態が励起状態です
励起状態は、レーザー媒質に対して外部からエネルギーを与えることで作られます。このエネルギー供給の方法はレーザーの種類によって異なり、光を照射する場合もあれば、電流を流す場合や化学反応を利用する場合もあります。
重要なのは、与えられるエネルギーが特定のエネルギー準位間の差に対応していることです。原子や分子は連続的なエネルギーを取るのではなく、決まったエネルギー準位しか持たないため、適切なエネルギーが供給されたときに励起が起こります。
励起状態は、基底状態に比べて不安定です。そのため、原子や分子はやがて元の低いエネルギー状態に戻ろうとします。このとき、余分なエネルギーは主に光として放出されますが、場合によっては熱エネルギーとして放出されることもあります。レーザー媒質では、光として効率よくエネルギーを放出することが重要になります。
この光の放出のしかたには、自発的に光を出す場合(自然放出)と、外から来た光をきっかけに光を出す場合(誘導放出)があります。レーザーでは、後者の誘導放出を意図的に起こすことが重要になります。
励起状態の中には準安定状態と呼ばれる比較的寿命の長い状態があります。通常の励起状態の寿命が10⁻⁸秒程度であるのに対し、準安定状態は10⁻³秒以上にわたって存在し続けることができます。
この長寿命が実現するのは、量子力学的な選択則により、準安定状態から基底状態への直接的な遷移が起こりにくいためです。この性質により、準安定状態にある原子や分子を蓄積することができ、多くのレーザーではこの準安定状態を利用して効率的に反転分布を実現しています。
例えば、ヘリウム-ネオンレーザーでは、ネオン原子の準安定状態に励起された原子が蓄積されることで、レーザー発振に必要な反転分布が形成されます。

自然放出:原子の状態

自然放出:電子の状態
自然放出とは、励起状態にある原子や分子が、外部からの刺激がなくても自発的に光を放出し、より低いエネルギー準位へ戻る現象です。励起状態は不安定なため、粒子は時間の経過とともに基底状態へ戻ろうとし、その際に余分なエネルギーが光として放出されます。
この自然放出は、光が生じる最も基本的な仕組みの一つであり、私たちが日常的に目にする多くの光源も、この現象を利用しています。
励起状態から光が放出されるという点では、自然放出もレーザー発振に関係しているように見えます。しかし、自然放出はあくまで偶発的で無秩序な現象であり、光の増幅や選別は起こりません。
レーザーを成立させるためには、自然放出ではなく、誘導放出を優勢に起こす条件を作る必要があります。そのために重要なのが、反転分布と共振器です。
自然放出によって放たれる光は、放出のタイミング・進行方向・位相がランダムです。そのため、同じ物質から光が出ていても、それぞれの光は互いにそろっておらず、空間的にも広がっていきます。
この性質により、自然放出による光は、明るく照らす用途には適していますが、精密な制御や集光には向いていません。照明や発光現象の多くが、このタイプの光に分類されます。

誘導放出とは、励起状態にある原子や分子が、外部から入射した光をきっかけとして、その光とまったく同じ性質をもつ光を放出する現象です。このとき放出される光は、入射した光と波長・位相・進行方向が完全に一致しています。
レーザーとは、この誘導放出を連鎖的に起こすことで、そろった光だけを効率よく増幅する技術です。誘導放出は、レーザー原理の中核をなす現象だと言えます。
自然放出では、光はランダムな方向・タイミング・位相で放出されます。一方、誘導放出では、外部から来た光が「合図」となり、その光と同じ性質の光が生成されます。
この違いにより、誘導放出で増えた光は互いにそろい、重ね合わせることで強め合います。自然放出が「ばらばらな光」を生むのに対し、誘導放出は「そろった光」を増やす現象です。
誘導放出が起こるためには、原子や分子が励起状態にある必要があります。基底状態にある粒子は、光を放出することができないためです。
さらに、レーザーとして有効に誘導放出を起こすには、励起状態にある粒子の数が十分に多い状態、すなわち反転分布が形成されていることが重要になります。この条件が満たされて初めて、誘導放出が自然放出よりも優勢になります。

誘導放出では、入射光により励起状態からの遷移が誘起され、入射光と同一の量子状態をもつ光子が放出されます。この結果、光子数が増加します。
この過程が繰り返されることで、光は指数関数的に増幅され、レーザー光として取り出せる強度にまで成長します。このとき重要なのは、”入射する光は1つ” ”放出される光は新たに1つ追加される”という点です。結果として、出射光は合計で2つになり、光の数が増えます。これが、レーザーにおける「光の増幅」の正体です。

レーザー光が
・波長がそろっている(単色性)
・進行方向が一定である(指向性)
・位相がそろっている(コヒーレンス:可干渉性)
といった特性をもつのは、誘導放出によって生み出された光が、すべて同じ性質を共有しているためです。
これらの特性は偶然得られるものではなく、誘導放出という現象の結果として必然的に現れる性質です。

普通の状態(熱平衡状態)

励起状態にある電子の数が多い状態
反転分布とは、原子や分子が存在するエネルギー準位において、高いエネルギー準位(励起状態)にある電子の数が、低いエネルギー準位(基底状態)にある電子の数より多くなった状態を指します。
通常、熱平衡状態では、電子の多くは基底状態にあり、エネルギーの高い状態ほど存在数は少なくなります。この「普通の分布」を意図的に逆転させた状態が、反転分布です。
レーザーでは、誘導放出によって光を増幅することが重要です。しかし、基底状態にある粒子が多いままだと、光は放出されるよりも吸収されやすくなります。
反転分布が成立すると、
という状況が生まれます。
この状態で初めて、入射光1つに対して出射光が2つになる誘導放出が優勢となり、光の増幅が可能になります。
反転分布は、自然に放っておいて生じるものではありません。通常の環境では、粒子は常に安定な基底状態へ戻ろうとするため、エネルギーの高い状態に粒子が偏ることはありません。
そのため、レーザーでは外部からエネルギーを与える励起(ポンピング)が不可欠になります。光照射や電気エネルギーなどによって、粒子を強制的に励起状態へ押し上げることで、反転分布が作られます。
反転分布が形成された媒質中に光が入射すると、吸収よりも誘導放出が多く起こるため、光は通過するたびに増えていきます。
このとき、
という増幅が繰り返されます。
反転分布は、誘導放出を連鎖的に起こすための「土台」だと言えます。

共振器のイメージ図
共振器とは、レーザー媒質の両端に配置されたミラーによって構成される構造で、光を内部で往復させるための装置です。
一般的には、一方が全反射ミラー、もう一方が一部だけ光を透過するミラーで構成されます。
レーザーにおいて共振器は、単に光を反射させているだけではなく、レーザー光としてふさわしい光だけを選び出し、増幅する役割を担っています。

フラッシュランプを励起光源としてレーザー媒質に光を照射すると、媒質中の原子や分子に含まれる電子がエネルギーを吸収し、基底状態からより高いエネルギー準位である励起状態へと遷移します。
この励起が継続的に行われることで、励起状態にある電子の数が増加していきます。
励起が継続的に行われることで、低いエネルギー準位にある電子よりも、励起状態にある電子の方が多い状態が形成されます(反転分布)

反転分布が形成された状態でレーザー媒質中に光が入射すると、励起状態にある電子が誘導放出を起こし、入射した光と同じ波長・位相・進行方向をもつ光が新たに放出されます。
発生した光は、レーザー媒質の両端に配置されたミラーによって往復反射され、そのたびに再び媒質を通過して誘導放出による増幅を受けます。

共振器の一方のミラーは、わずかに光を透過するよう設計されており、内部で十分に増幅された光の一部がここから外部へ取り出されます。
このとき出射される光が、レーザー光として利用される出力です。
このように、レーザーは反転分布の形成、誘導放出による光の増幅、共振器による選別と往復増幅という一連の過程を経て、安定した光として出力されます。
レーザー媒質中では、自然放出や誘導放出によってさまざまな光が発生します。しかし、そのすべてがレーザー光になるわけではありません。
共振器の中では、
だけが、ミラー間を往復しながら何度も増幅されます。条件に合わない光は、反射されずに失われていきます。この選別作用によって、レーザー光は波長がそろい、指向性が高く、安定した光として形成されます。
仮に反転分布が形成され、誘導放出が起こっていても、共振器がなければ光は一方向に流れて消えてしまいます。共振器は、誘導放出によって生まれた光を何度も媒質に通し、連鎖的な増幅を可能にする装置だと言えます。このため、共振器はレーザーの原理において不可欠な要素です。

固体レーザーとは、レーザー媒質として固体材料(結晶やガラス)を用いたレーザーの総称です。媒質には、結晶やガラスそのものではなく、ネオジム(Nd)やクロム(Cr)などの元素を添加した材料が用いられます。これらの添加元素がエネルギー準位を持ち、励起・反転分布・誘導放出を通じてレーザー発振が起こります。
固体レーザーは、構造が比較的シンプルで安定性が高く、高出力から高品質ビームまで幅広く対応できるレーザー方式として、歴史的に重要な役割を果たし、現在も多くの分野で利用されています。
固体レーザーで用いられる媒質には、主に以下のような結晶やガラスがあります。
Nd:YAG(ネオジム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット)結晶
高い機械的強度と熱特性を持ち、連続発振(CW)から高エネルギーパルスまで対応可能な代表的媒質。
Nd:YVO₄(ネオジム添加バナジウム酸イットリウム)結晶
励起効率が高く、比較的低出力でも高い利得が得られるため、小型・高効率レーザーに適しています。
ルビーレーザー(Cr添加アルミナ結晶)
1960年に世界で初めて実現された固体レーザーで、レーザー技術の歴史において極めて重要な位置を占めます。パルス発振に適した特性を持ちますが、現在では主に教育・デモンストレーション用途で使用されています。
Nd添加ガラス(リン酸ガラス、ケイ酸ガラスなど)
大型化が容易で、非常に高いエネルギーを蓄積できるため、高エネルギーパルスレーザー用途で使用されます。
固体レーザーは、媒質の違いによって大きく結晶系とガラス系に分けられます。結晶レーザーは、熱伝導性や機械的強度に優れ、高いビーム品質と安定した発振が得られるのが特徴です。
一方、ガラスレーザーは、熱特性では劣るものの、大型化が容易で高エネルギーを蓄積できるため、研究用途や大型レーザー装置で活躍します。用途や求められる性能に応じて、これらの媒質が使い分けられています。
固体レーザーには、次のような特徴があります。
これらの特性により、固体レーザーは「汎用性の高いレーザー方式」として位置づけられています。
固体レーザーは、以下のような幅広い分野で利用されています。特に、短時間に高いエネルギーを出力できる特性は、高速現象の観察や精密加工において大きな強みとなります。

金属・樹脂の切断や溶接などのレーザー加工

流体・微粒子・変形の可視化や光学計測

研究・実験用途の光源

医療・分析分野
固体レーザーは、レーザー技術の発展において中心的な役割を果たしてきた存在であり、高出力・高信頼性・応用範囲の広さを兼ね備えたレーザー方式です。
現在では、産業用途においてファイバーレーザーや半導体レーザーが普及し、用途によって最適なレーザーが選ばれる時代となっていますが、固体レーザーは依然として産業・研究・計測・可視化といった多くの分野で重要な光源として利用されており、レーザー技術を理解するうえで欠かせない存在だと言えます。

半導体レーザーとは、レーザー媒質として半導体材料を用いたレーザーです。p型半導体とn型半導体を接合したpn接合構造に電流を流すことで、電子と正孔が再結合し、その際に発生する光を利用してレーザー発振を行います。
他のレーザー方式と異なり、半導体レーザーは電気エネルギーを直接レーザー光に変換できる点が最大の特徴であり、生産数量・使用頻度ともに最も広く利用されているレーザー方式です。
半導体レーザーでは、電流を注入することで電子と正孔が活性層に集まり、反転分布が形成されます。この状態で誘導放出が起こり、半導体結晶の端面を鏡として利用する共振構造によって光が増幅され、レーザー光として出力されます。
共振構造には、端面反射型(ファブリペロー型)、分布帰還型(DFBレーザー)、垂直共振器面発光型(VCSELレーザー) などがあり、用途に応じて使い分けられています。このように、励起・反転分布・誘導放出という基本原理は他のレーザーと共通していますが、電流注入によって直接励起できる点が半導体レーザーの大きな特徴です。
半導体レーザーでは、使用する材料によって発振波長が決まります。代表的な材料には次のようなものがあります。
・GaN系:
窒化ガリウム 約400-500 nm(青紫~青色)
・GaAs系:
ガリウムヒ素 約780-850 nm(近赤外)
・InGaAs系:
約1.3-1.55 µm(光通信波長帯)
半導体レーザーには、次のような特徴があります。
これらの特性により、半導体レーザーは大量生産・民生用途から産業用途まで幅広く普及しています。単体での出力は数mWから数W程度が一般的ですが、高出力用途では複数の半導体レーザーをアレイ化(バー構造) することで、数十Wから数百Wの出力を得ることも可能です。
一方で、単体での出力は比較的小さく、ビーム品質は固体レーザーに劣る場合があります。また、温度変化による波長変動が生じるため、用途によっては温度制御が必要となります。


半導体レーザーは、私たちの身の回りから産業分野まで、非常に多くの用途で利用されています。
特に、固体レーザーやファイバーレーザーの励起光源として用いられる点は、現代のレーザー技術を支える重要な役割です。また、近年では自動運転やロボット向けのLiDAR、スマートフォンの顔認証など、先端技術分野での需要が急速に拡大しています。
半導体レーザーは、最も高効率で、小型化に優れ、量産が可能なレーザー方式です。単体の光源としてだけでなく、他のレーザー方式を支える基盤技術としても不可欠であり、レーザー技術の発展において中心的な役割を果たしています。
日常生活から先端産業まで、現代社会のあらゆる場面で半導体レーザーが活用されており、レーザー技術の中で最も普及した方式といえます。

気体レーザーとは、レーザー媒質として気体(単体または混合ガス)を用いるレーザーです。レーザー媒質が気体であるため、固体レーザーとは異なる特性を持ち、高いビーム品質や長時間安定発振が可能な点が特徴です。
気体レーザーでは、電気放電によって気体中の原子・分子を励起し、反転分布を形成します。その後、誘導放出と共振器による増幅によってレーザー光が得られます。
気体レーザーには多くの種類がありますが、代表的なものとして次が挙げられます。それぞれ発振波長や出力特性が異なり、用途に応じて使い分けられています。
He-Neレーザーは、ヘリウムとネオンの混合ガスを用いた気体レーザーで、可視光(赤色)レーザーとして広く知られています。発振波長は 632.8 nm が代表的で、非常に安定した単色光と高いコヒーレンスを持つことが特徴です。
出力は比較的低いものの、ビーム品質が極めて高いため、
などで利用されてきました。現在では多くの用途で半導体レーザーに置き換わりつつありますが、光学標準や教育用途では依然として重要な光源です。
CO₂レーザーは、二酸化炭素を含む混合ガスを媒質とする気体レーザーで、赤外領域(約10.6 µm)のレーザー光を発振します。気体レーザーの中でも特に高出力が得られる点が大きな特徴です。
そのため、
といった産業用レーザー加工の分野で広く使用されてきました。現在では多くの金属加工用途でファイバーレーザーに置き換わりつつありますが、厚板切断や非金属材料の加工では依然として重要な役割を果たしています。
エキシマレーザーは、希ガスとハロゲンの化合物(エキシマ分子)を媒質とする気体レーザーで、紫外領域の短波長レーザー光を発振します。
代表的な波長には、ArF(193 nm)、KrF(248 nm)などがあり、半導体製造のフォトリソグラフィにおいて現在も不可欠な光源として使用されています。また、レーザー医療(視力矯正手術など)でも利用されています。

ファイバーレーザーとは、レーザー媒質として希土類元素を添加した光ファイバーを用いるレーザーです。構造的には固体レーザーの一種に分類されますが、媒質が「結晶やガラスロッド」ではなく、細長い光ファイバー形状である点が大きな特徴です。
レーザー媒質には、イッテルビウム(Yb)やエルビウム(Er)などを添加したガラスファイバーが用いられ、励起・反転分布・誘導放出といった基本原理は、従来の固体レーザーと共通しています。
発振波長は、Ybファイバーレーザーの場合約1070 nm(1.07 µm)の近赤外域が代表的で、この波長は金属への吸収率が高いため、金属加工に適しています。
ファイバーレーザーは、固体レーザーの発展形と位置づけることができます。従来の固体レーザーでは、結晶やガラスロッドを用いるため、熱の集中や光軸調整が課題となる場合がありました。
一方、ファイバーレーザーでは、
といった構造的特長により、高効率・高出力・高ビーム品質を同時に実現しやすくなっています。特に、従来のランプ励起に代わって半導体レーザー励起を採用したことは、高効率化の重要な要因となっています。このため、ファイバーレーザーは「固体レーザーの欠点を補った方式」として急速に普及しました。
ファイバーレーザーには、次のような特徴があります。
これらの特性により、産業用途において非常に扱いやすいレーザーとなっています。
ファイバーレーザーは、現在の産業用レーザー加工分野において中核的な存在です。
主な用途としては、
などが挙げられます。特に金属加工分野では、従来広く用いられていたCO₂レーザーやNd:YAGレーザー(ランプ励起固体レーザー)に代わり、ファイバーレーザーが主流となっています。
一方で、発振波長の選択肢が主に近赤外域に限られるため、非金属材料の加工など、特定の用途では従来型レーザーが使われることもあります。また、超短パルス発生などの特殊用途では、従来型固体レーザーが選ばれる場合もあります。
ファイバーレーザーが急速に普及した理由は、高出力・高効率・高信頼性を同時に実現できた点にあります。
といった点は、量産加工や連続運転が求められる産業現場において大きなメリットとなります。
ファイバーレーザーは、固体レーザーの原理を引き継ぎながら、構造と運用性を大きく進化させたレーザー方式です。現在では、産業用レーザー加工を中心に不可欠な存在となっており、固体レーザーの理解を深めるうえでも重要なレーザー技術の一つといえます。
レーザーには、使用する媒質や構造の違いによって、いくつかの方式が存在します。それぞれのレーザー方式は、発振原理こそ共通しているものの、出力特性、効率、ビーム品質、装置構成、適した用途が大きく異なります。
以下の表では、これら4つのレーザー方式について、媒質、励起方法、波長、出力特性、用途、現在の位置づけといった観点から整理し、違いが一目で分かるように比較しています。
| 項目 | 固体レーザー | 半導体レーザー | 気体レーザー | ファイバーレーザー |
| レーザー媒質 | 結晶・ガラス(Nd:YAG、Nd:YVO₄、Nd:ガラス など) | 半導体材料(GaAs、GaN、InGaAs など) | 気体(He-Ne、CO₂、Ar、エキシマ など) | 希土類添加光ファイバー (Yb、Er 添加ガラスファイバー) |
| 励起方法 | ランプ励起、半導体レーザー励起 | 電流注入 | 放電励起 | 半導体レーザー励起 |
| 代表的な波長 | 1064nm ※波長可変で可視・紫外も可 |
400nm~1.55μm | 可視(He-Ne) 赤外(CO₂) 紫外(エキシマ) |
約1030-1100nm(Yb系) 1.55μm(Er系) |
| 発振形態 | CW/パルス両対応 | CW・高速変調 | 主にCW(種類によりパルス) | 主にCW・高繰り返しパルス |
| 出力特性 | 高出力・高エネルギー | 単体は低~中出力、アレイ化で高出力 | 低出力~高出力(CO₂) | 非常に高出力・高効率 |
| ビーム品質 | 高い | 中程度(方式による) | 非常に高い | 非常に高い・安定 |
| 装置サイズ | 中型 | 非常に小型 | 大型になりやすい | 小型~中型 |
| エネルギー効率 | 中~高 | 非常に高い | 低~高 | 非常に高い |
| 冷却方式 | 水冷(チラー)、空冷 | 空冷、ヒートシンク、ペルチェ | 空冷、水冷(高出力CO₂など) | 空冷、簡易水冷 |
| 主な用途 | レーザー加工、可視化、研究用途 | 光通信、LiDAR、励起光源 | 光学実験、産業加工、半導体製造(エキシマ) | 溶接、金属切断、微細加工 |
| 現在の位置づけ | 高出力レーザーの中核 | 最も普及 | 特定用途に特化して利用 | レーザー加工の主流 |

CW(連続発振)のイメージ

パルスのイメージ
レーザーは、発振の仕方によって大きく 連続発振(CW:Continuous Wave) とパルス発振の2つに分類されます。同じレーザーであっても、光を「連続的に出すか」「短時間にまとめて出すか」によって、出力特性や適した用途は大きく異なります。
CWレーザーは、一定の出力で安定した光を連続的に照射できるため、加工や計測、位置決めなど、安定性と再現性が求められる用途に適しています。
一方、パルスレーザーは、極めて短い時間に高いエネルギーを集中させることができ、高速現象の観察や微細加工といった分野で力を発揮します。
CWレーザー(Continuous Wave Laser)とは、レーザー光を時間的に途切れることなく、連続的に出力し続けるレーザーです。「連続発振」という名前のとおり、一定の出力で安定した光を常時照射できる点が最大の特徴です。
CWレーザーでは、レーザー媒質内で反転分布が安定して維持され、誘導放出と共振器による増幅が定常状態で行われています。そのため、出力変動が少なく、長時間にわたって安定したレーザー光を得ることができます。
CWレーザーには、次のような特性があります。
長時間連続運転に適している
このような特性から、CWレーザーは「瞬間的な強さ」よりも、安定性・再現性・平均出力が重視される用途に向いています。
CWレーザーには、以下のような分野で広く利用されています。
位置決め・アライメント
ビーム位置が安定しているため、装置調整や光軸合わせに適しています。
光通信・センシング
連続光を用いた信号伝送や検出に適しています。
パルスレーザー(Pulsed Laser)とは、レーザー光を非常に短い時間幅で断続的に出力するレーザーです。ナノ秒(ns)、ピコ秒(ps)、フェムト秒(fs)といった極めて短い時間に光を集中させて放出する点が、パルスレーザーの最大の特徴です。
パルスレーザーでは、平均出力がそれほど高くなくても、瞬間的なピーク出力は非常に大きくなるという特性があります。このため、CWレーザーでは実現が難しい現象の観察や加工が可能になります。
パルスレーザーには、次のような特徴があります。
特に、短パルス化することで、周囲への熱拡散が起こる前に加工や計測が行える点は、大きな利点です。
パルスレーザーは、次のような分野で活用されています。
微細加工・精密加工
金属や半導体材料に対して、熱影響を最小限に抑えた穴あけ・切断・表面加工が可能です。
高速現象の可視化・計測
衝撃波、キャビテーション、噴霧、爆発現象など、極めて短時間で変化する現象の観察に用いられます。
材料評価・研究用途
レーザー誘起発光や非線形光学現象の観測など、研究分野で重要な光源です。
医療・バイオ分野
組織への熱ダメージを抑えた治療や加工に利用されます。
パルスレーザーは、パルス幅によって用途が大きく変わります。
このように、パルス幅の違いが、加工精度や観測可能な現象のスケールを決定します。
パルスレーザーは、パルス幅によって用途が大きく変わります。
このように、パルス幅の違いが、加工精度や観測可能な現象のスケールを決定します。
両者は同じ「レーザー光」でありながら、光の出し方が異なるため、出力特性、熱の与え方、時間分解能、適した用途が大きく変わります。どちらが優れているというものではなく、目的や対象に応じて適切な発振形態を選ぶことが重要です。以下の比較表では、CWレーザーとパルスレーザーの違いを、特性や用途の観点から整理しています。
| 項目 | CWレーザー | パルスレーザー |
| 出力の時間特性 | 出力が時間的に一定 | パルスごとに出力 |
| パルス幅 | ー | ns(ナノ秒)、ps(ピコ秒)、fs(フェムト秒) |
| 平均出力 | 高い | 中~低(条件による) |
| ピーク出力 | 低い | 非常に高い |
| エネルギー | 連続的にエネルギーを供給 | 短時間にエネルギーを集中 |
| 熱影響 | 熱が蓄積しやすい | 熱影響を抑えやすい |
| 時間分解能 | 低い | 非常に高い |
| ビーム安定性 | 高い安定性 | 条件により変動 |
| 制御のしやすさ | 比較的容易 | やや複雑 |
| 主な強み | 安定性、再現性、長時間運転 | 高ピーク出力、高速現象の観察 |
| 適した用途 | 連続加工(切断・溶接)、流れの可視化、位置決め、光通信 | 微細加工、高速現象の可視化、材料評価、医療、バイオ |
| 代表的なレーザー | 固体レーザー(CW)、半導体レーザー、He-Neレーザー | Nd:YAGパルスレーザー、ピコ秒・フェムト秒レーザー、エキシマレーザー |
レーザーは、発振する波長の違いによって、物質との相互作用や見え方、適した用途が大きく異なります。同じ出力・同じ発振形態であっても、波長が変わるだけで「できること」「得意なこと」は大きく変化します。
| 波長帯 | 目安となる波長範囲 | 主な特性 | 得意な用途 | 代表的なレーザー |
| 紫外(UV) | 約100~400nm | ・エネルギーが高い ・表面吸収が強い ・熱影響を抑えやすい |
微細加工、高分解能加工、フォトケミカル反応 |
エキシマレーザー、紫外固体レーザー |
| 可視光 | 約400~700nm | ・人の目で確認可能 ・ビーム位置が分かりやすい ・扱いやすい |
可視化、アライメント、皮膚科での色素治療、眼科治療 | He-Neレーザー、半導体レーザー |
| 近赤外 |
約700nm~2μm |
・透過性が高い |
金属加工、計測、光通信、内視鏡治療 | Nd:YAGレーザー、ファイバーレーザー |
| 赤外(IR) |
約2~20μm |
・熱作用が支配的 |
熱加工、非金属材料加工、加熱・表面処理、歯科治療 | CO₂レーザー |
紫外レーザーは、波長が短く、光子エネルギーが高いことが特徴です。そのため、材料表面との相互作用が強く、微細加工や高分解能用途に適しています。
主な特性は以下のとおりです
半導体製造のフォトリソグラフィや、精密加工、医療分野などで利用されています。
可視レーザーは、人の目で直接確認できる波長帯であり、位置合わせや可視化、光学実験で非常に扱いやすいレーザーです。
主な特性は次のとおりです
流れの可視化、干渉実験、アライメント用光源など、「見えること」が重要な用途で広く使われています。
近赤外レーザーは、可視光よりも波長が長く、透過性が高いことが特徴です。多くの固体レーザーやファイバーレーザーがこの波長帯で発振します。
主な特性としては
といった点が挙げられます。
産業用レーザー加工や、計測、通信分野で中核的な役割を担っています。
赤外レーザーは、熱作用が支配的になる波長帯です。材料内部で吸収されやすく、熱加工や加熱用途に適しています。
主な特性は
CO₂レーザー(約10.6 µm)に代表されるように、木材・樹脂・ゴムなどの加工や表面処理で広く用いられています。
レーザー光は、波長・位相・進行方向がそろった光である点が、普通の光と大きく異なります。
照明や太陽光はさまざまな波長や方向の光が混ざっていますが、
レーザーは非常に秩序だった光のため、精密な加工や計測、可視化に利用できます。
レーザー光は指向性が非常に高いため、ほとんど拡がらずに直進します。
これは、誘導放出によって同じ方向の光だけが増幅され、
共振器によってその方向が選別されているためです。
レーザーは、光をそろえて増やす仕組みによって生み出されます。
まず、レーザーの材料(結晶・ガラス・気体・半導体など)にエネルギーを与え、
中にある原子や電子を励起状態(元気な状態)にします。
このとき、元気な状態の原子や電子がたくさん集まった
反転分布という特別な状態が作られます。
この状態で光が通ると、元気な原子や電子が反応し、
入ってきた光とまったく同じ光をもう1つ放出します。
これを誘導放出といいます。
レーザーの中には、光を行ったり来たりさせる鏡(ミラー)があり、
光はその中を何度も往復しながら、同じ光がどんどん増えていきます。
十分に強くそろった光の一部が外に出てきたものが、レーザー光です。
レーザーの波長が変わると、材料への吸収のされ方や透過性が大きく変わります。
例えば、紫外レーザーは微細加工に向き、赤外レーザーは熱加工に向いています。
用途に応じた波長選択が、レーザー活用の重要なポイントです。
レーザーは、眼科手術、皮膚科治療、歯科治療、外科手術など、
医療分野でも幅広く利用されています。
波長や出力を適切に選ぶことで、組織への影響を精密に制御できます。
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